「良い家」ってどんな家?
商売がら、新築の家をみる機会が多い。その時に必ずと言っていい程「良い家でしょう!」と言われるのだが、いつも返事に困ってしまう。実際どのような家が良い家なのか。人それぞれ好みも価値観も違うので、何と答えたらいいのか分からないのです。設計が良い・外見が良い・内装が良い・使い勝手が良い・面積が広い、などいろいろな捉え方があります。間違いなく言えるのは、すべてをクリアーしている家は素晴らしい家である。が、そうはお目にかかれない。
木・木材に携わっている者としては、どうしても「良い家」と言うと、ふんだんに木を使っている家を思い浮かべてしまう。それは、お金をかけた高級木材に限らず、安い木材であっても、木を多く使っている家は心が安らぐように思うからです。確かにお金をかけて高級材を多く使った方がいいに決まっている。しかし、使える人はそうはいない。仮に中級品以下の材料であっても、材料をふんだんに使い、その家・その部屋の雰囲気に合った使い方をしている家は、お金をかけたかけないの問題ではなく、とても素晴らしい家だと思う。
最近、日本の住宅を見ていて一つ疑問に思う事がある。床に関しては、みなさん木質のフロアーにこだわっている様ですが、壁・天井に関しては、石こうボード下地にクロス貼りと言うのが定説のようになっている。
なぜ、壁・天井には木質材を使わないのか。たしかに内装制限などの規制もうるさくはなっていますが不思議です。確かにクロスに比べれば、壁に板材などを貼るのに手間がかかりますが、長い目でみればやはり長持ちするし、味も出てくる。
10年〜15年前の住宅にはいろいろな所に使っていたのだが、最近の住宅ではほとんど木製品を内装材として使われなくなってきている。そのかわりに塩化ビニール(塩ビ)、プリント、メラミン、ポリ合板など同じ模様が何千、何万と生産できるものに代わってきています。目が揃わない、色が違うなど、施主からのクレームが少ないからです。それに最近のものはとても精巧に出来ており、表面にエンボス加工(凹凸)など施してあると、木目調の製品などは我々でもちょっと見分けのつかない事がよくあります。
また、施主の方に「この柱や内装材、無節で色が揃っているでしょう?」と言われる事があるが、その材料が実は塩ビやプリントである事がある。しかし施主の方がムクの木材と信じているところで「違いますよ」とは面と向かって言えず、ニコニコ笑って頷くしかないような事もあるのです。
消費者は木材製品を工業製品と同じに考え、同じ模様・同じ色・同じ物をより安くと要求される。すると今の日本人のレベルでNOクレームにするのは難しくなる為、住宅会社は木材製品ではなく、塩ビ・プリント製品に切り替えてしまう。
木は人間の顔や性格と一緒で、それぞれ全て違う。例えその表面に同じ色の塗装をしたとしても、全部といっていい程微妙に違う色に仕上がってくる。
「同じ物は2つとない」という事を多くの人が理解し、もっともっと多くの住宅で木材製品を使ってもらえるようになれば、コストも下がります。無機質なクロスに壁・天井を囲まれた冷たい部屋ではなく、木を使って優しさのある部屋に住んでいただきたい。私は、早くそのような時代が来ることを待ち望んでいます。
※内装制限…建築物の用途等により内装に不燃材を使用するよう義務づける事。